message in a bottle

成果展「message in a bottle 島と/詠む」

2023年02月28日

成果展「message in a bottle 島と/詠む」

「message in a bottle」とは、ビンに詰めて海に投じられた伝言のことを言います。それは、いつ届くのかは不明としながらも最も大切な人へと託したメッセージです。

成果展「message in a bottle 島と/詠む」は、2022年11月28日から12月3日にかけて、那覇市壺屋にあるKIYOKO SAKATA studioにて開催されました。「島の暮らし」の中から、どこに視点を置き、何を伝えていくのか。夏(8月27日〜9月9日)に行った講座「message in a bottle 島で/拾う」(ワークショップとフィールドワーク)に参加した4名のメンバーが、リサーチで得た資料や制作物を発表しました。

青イ木あくび 「メモ:この渚に降りようとする鳥たちを祝福するための」

 講座では、映画『イザイホウ』の鑑賞と首里・南城市でのフィールドワークを通して「言の葉」を探した。それぞれの場所や人から言葉やそれらしいものをもらうたび、沖縄にいるはずがここを懐かしく感じていた。同時に、凄まじい速さで後ろへ流されるままの日々と、ふと立ち上がってくるこの島の現実が合わさって、不明瞭な喪失感と、怒り、浮遊感、罪悪感を抱いた。

 講座が終わって、メモを整理していると、もらったものたちの祈りのような言葉が、それぞれの決意の輪郭を際立たせていると感じた。それは、朝凪が血を深々へ沈める式日に、一羽のサギが降り立とうする渚で、女たちが白い着物に腕を通すときのように、眠るひとに花を添えるときのように、ひとが通勤の足あとを鳴らし始めるときのように、白いおくるみから伸びる小さな手が愛おしく握り返すときのように、途方もない生活の間に漂うささやかな祈りの声を何度も思い出し、静かに祝福するための言葉を探していく。今回はそのための一歩となるように。[Text  青イ木あくび]

【プロフィール】
青イ木 あくび ( 金城 桜) Akubi Aoiki ( Sakura Kinjo)
沖縄県立芸術大学 修士課程環境造形専攻を修了。1993 年沖縄県出身。白井明大氏編集の同人誌「ぶーさーしっ1」(2020 年、七月堂) より詩を発表する。琉球新報「琉球詩壇」(2021 年)、「ぶーさーしっ2」(2021 年、七月堂)、福地リコ監督映画「Childhood’ s end」(2022年)映画内の詩。

泉川のはな 「めをひらく -感覚と認識の再構成-」

 今回参加した講座では「織」「質感」「肌感覚」といった、これまでの表現活動とは別の視点を意識するきっかけとなった。ジリジリと皮膚に焼け付く夏の日差し、ザラザラした木肌、強い日差しでキラキラと反射する葉の産毛。普段の制作では、風景や個人的な記憶、過去の記録をもとに想像を広げていくことがほとんどである。しかし今回は見たものだけでなく、手触りや温度感にも意識を向けることとなった。視覚や知識、そしてそれらに結びつく感情を中心に捉えていたところから、皮膚から伝わる触覚にも集中する。身体をぐるりと包む皮膚もまた、外界を認知する器官であると気づかされる。

 体験した織物制作の工程は、身体を動かした結果がそのまま触れられるかたちとなって現れ、それはただの制作物でなく自己の身体の延長線だと気づく。織りあがったものの感触が自分へと帰っていく。

 まるで意識の中で織物が出来上がっていくように、一度完結した認識がほぐされ、素材となり、新たに再構成されていく感覚を覚える。外部との接触による「違い」を知ることによって自己認識に変化がもたらされる。「織」という外の風にくすぐられ、うんと伸びをした時のように、まどろんでいた器官が目覚める。[Text 泉川のはな]

【プロフィール】
泉川 のはな Izumikawa Nohana
2016 年東北芸術工科大学院修了後、絵画を中心に制作活動を続ける。出身地である沖縄をテーマとし、過去の写真資料をもとに現代の沖縄風景を表現したコラージュ作品や、南国植物をモチーフにしたドローイングなどを制作。複数の視点を同一の画面上で構成する手法や、いかにも沖縄らしいありふれたモチーフを使用することで「オキナワ」イメージの持つ虚実について考察する。 

大城可奈子 「形をなぞる」

 8月の末に、太陽の光を浴びて生き生きと葉を伸ばす植物たちに囲まれながら、見慣れた首里の町や、南城市の祈りの地を巡りました。“質感” をテーマに 手で触れ観察しながら、“言の葉” を探して歩きながら、これまで見えていなかった沖縄の姿と向き合うことができた 特別な時間だったと感じています。

 これまで、沖縄で作品を作ることの意味をずっと考えてきました。ニュースの中で見る沖縄と、私が生きている沖縄は別の場所のように感じることが多いように思います。講座では さまざまな土地と向き合い制作を行なってきた講師のお二人から、場との向き合い方、その土地の人との関わり方についてのお話を聴きながら、手で素材を見ること、機材を用いて より客観的に観察すること、さまざまな場所を自分の足で巡ることで、日常の風景がそれまでと違ったものに見えてきました。

 今回の展示では、8月の講座、11 月のフィールドワークで集めた写真資料や採取した素材とドローイングを展示しています。

【プロフィール】
大城 可奈子 Kanako Oshiro
1997 年 沖縄生まれ。沖縄県立芸術大学 修士課程 環境造形専攻在籍。沖縄市の絵画教室を拠点に、子どもたちとのアート活動を行なっています。光、植物など 身近な自然を通して、沖縄の今の姿を作品に残しています。

諸見里ちひろ 「クバの木の下で」

「島の暮らし」をテーマとしたふたつの講座を通して、素材や場所に対して向き合う考え方を学ばせていただきました。

 宮城先生の講座では繊維素材の原料植物であるカポックの講義が印象的でした。同じ植物でも土地や所有者により色や形が異なる面白さのほか、その木と人びとの暮らしやエピソードまでまとめられた資料は興味深く、 「 素材に向き合う」 とはその素材が生まれた時からの記憶と向き合うことであると私なりにとらえることができました。

 城間先生の講義では、フィールドワークとして南城市百名•仲村渠の聖地など普段は行けない場所を学ばせていただける大変貴重な機会をいただきました。また海燕社様の映画「イザイホウ」を見て、映像から言葉探しをした講義が特に印象的で、フィールドワークでも映像鑑賞でも、言葉探しという能動的な見かたをすることで想像が膨らむ楽しみを学べました。

 今回のリサーチ展示では、ふたつの講座で共通して目に留まった御嶽など神事において大切な場所に自生する植物について新たな興味の広がりが生まれたため、素材の研究や考えたことをリサーチとしてまとめました。

【プロフィール】
諸見里 ちひろ Chihiro Moromizato
1998 年生まれ。2021 年琉球大学教育学部美術教育専修卒業後、沖縄県立芸術大学修士課程 環境造形専攻絵画専修に在籍中。「記憶を内包した植物空間」をテーマに、沖縄のおおらかで不思議な植物たちと、森や山など土地の記憶との結びつきをイメージした作品制作を行なっています。また作品の素材として、バショウやゲットウ等を使用した植物紙を取り入れています。

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